紅葉の金蔵寺に五色椿を見つける

 京都大原野、西山連山の小塩山深くにある金蔵寺は、紅葉の名所として知られています。

 人里離れて、山中にポツンとあるお寺で、シーズン以外は観光で訪れる人は少ないのですが、山の木立に囲まれた古いお寺の雰囲気が好きな方で、健脚の方にとっては、おすすめのスポットです。

 11月5日、ようやく紅葉が始まりかけた金蔵寺を久しぶりに訪れましたが、思いがけず、隠れた名木というべき五色椿に出会うことができました。

1 紅葉の隠れた名所「金蔵寺

 金蔵寺は、養老2年(718年)、元正天皇の勅命によって開創されたと伝わる古刹です。平安京に都を遷すにあたって、桓武天皇は都を護るため、京の四方の山に経典を納めた岩蔵を設けたとされていますが、金蔵寺は、西の岩蔵のあったところであり、「西岩倉山」の寺号を称しています。

 「今昔物語」にもエピソードが記載されているお寺で、盛時には49坊を数えたと言いますが、応仁の乱以降の兵火によって焼失してしまいました。

 時は下り、元禄4年(1691年)に、綱吉の母である桂昌院の寄進によって再建され、今に至っています。桂昌院は幼少のころにこのお寺で世話になった縁があったようです。

今昔物語 第17巻第39話 西石蔵仙久知普賢化身語

 今昔、京の西山に西石蔵(いはくら)と云ふ山寺有り。其の山寺に、仙久と云ふ持経者住けり。年来、此の山寺に住て、法華経を日夜に読誦して、更に怠る事無し。又、本は仙久の僧として、法文を学びければ、此の山寺に住ても、常に法文に向て学問をしけり。亦、道心並び無くして、諸の人を見ては、慈びの心深くして、父母の如く思ひけり。亦、寤寐も専に極楽に生れむ事を願て、念仏を唱ふる事隙無し。亦、房の傍に、別の草の庵を造て、法華の八曼陀羅を懸奉て、八香印を焼て、其の法を行ふ。此の如く、様々に懃に勤め行ふ間に、世の人、数(あまた)夢に見る様、「若し、普賢を見奉らむと思ふ人あらば、西石蔵の山寺に住む仙久聖人を見るべし。此れ、普賢の化身也。専に近付くべし」と。此の夢の告を聞き継て、世の人、京よりも田舎よりも、此の人に結縁せむが為めに尋ねて来る。其の員多し。此の如く為る間に、聖人、齢漸く傾て、法華の薫修、自然ら至て、遂に命終る時、心乱れずして、念仏を唱へ、経を誦して、失にけり。世の人(ひ)と、此れを聞て、皆弥よ信を発しけりとなむ、語り伝へたるとや。

 金蔵寺へは車で行くことはできますが、ルートの府道733号線「向日・柚原線」は、狭隘で旧こう配の難所でいっぱいの難路として知られており、大雨時などは崖崩れで通行止めになるような路線なので、重々気を付けて運転しないといけません。

 山に入ると離合ができない一車線区間が続くので、対向車が来たら、なかなか厳しい状況となります。

 最寄りの交通機関もないので、車を使わないなら、南春日町のバス停からトレッキングで1時間余り要することになりますね。

 東海自然歩道のルート上なので、洛西・大原野神社勝持寺(花の寺)から金蔵寺に立ち寄るハイカーも見られます。

 

 さて、山門の仁王様に迎えられて、石段を上っていくと、市内よりは進んだ紅葉が目に入ってきました。紅一色の景色が本命ではありますが、緑から紅へのグラデーションもまた、季節の移ろいのシーンの一つとして楽しめます。

開山堂です。

 急な石段を何度が上がると、権現堂が見えてきます。

 このお堂には、明智光秀が本能寺に攻め入る前に必勝祈願を行ったと伝えられる「勝軍地蔵」が納められています。もともとは、愛宕山愛宕神社の前身であった白雲寺に祀られていたのですが、この寺は明治になって廃絶となり、混乱の中、このお地蔵さんの行先がないのを見かねて、金蔵寺が引き受けたという経緯があったそうです。

 毎年、4月23日の一日だけ御開帳となります。

2 人知れず静かに存在する五色椿

 仁王門の石段を上がった一段目の高台の左手に庫裏があり、縁側に面して、こぢんまりとした庭園があります。干し柿が吊るされている木戸をくぐって入ると、庭の一角に四、五本の幹が株立ちになった大きな椿を見つけました。

 幹のそれぞれは、そこまで太くはないのですが、寄せ植えのように一本化しています。もしかしたら、柊野の大椿 のように、土盛りがされており、地下部分では台木のようにつながっているのかもしれません。

柊野の「五色八重散椿」 - 京で椿を楽しむセカンドライフ


 庫裏の奥にあるお住まいのそばで、寺の奥さんが用事をしておられたので、お邪魔でしたが、この椿のことをお聞きしました。

 晩春に、紅白の色とりどりの花が咲くそうで、京のお寺らしく、五色椿のようです。花弁の落ち方を聞くと、花ごとぽとりと落ちるとのことですので、散椿ではなく、御香宮神社の「おそらく椿」系かなと思います。

御香宮神社の「おそらく椿」 - 京で椿を楽しむセカンドライフ

 この椿は、以前、何かのメディアで紹介されたことがあるそうですが、知る人ぞ知る椿なのでしょう。

 4月23日の「勝軍地蔵」の開扉の頃には、ちょうど五色椿が見頃なので、またお越しくださいとのことでした。

 私が椿を好きなことを知って、黒椿も案内していただきました。黒椿の開花も遅めなので、五色椿と同時に見ることができるので楽しみです。

 紅葉が始まると、サザンカも咲き始めます。

 ところで、山寺なので、🐒、🦌、🐗には苦労されているようです。

 下の写真のように、キンモクセイも、🦌の届く高さは食べられてしまっているそうです。

3 金蔵寺の大イチョウ

 金蔵寺には、「紅葉」とともに、「黄葉」が有名なイチョウの大木があります。

 今年は秋の冷え込みが遅れたせいか、まだ葉の色は変わっていませんでしたね。

 奥さんは、「黄葉」時には、山を仰ぐと、遠くからでも黄色く染まるスポットとして目立つため、見頃はそれを目印にすれば分かりますよと仰っていました。

 これほどの巨木の落葉であれば、辺りを黄色く埋め尽くすというのもよくわかります。

 イチョウは長寿で千年を超えるものもあると聞きます。

 このイチョウは樹齢1300年ということですが、それは伝承としても、お寺創建時からあったとしてもうなずける存在感ある大木です。

 寺の裏山、小塩山に上がっていく道筋には、スギが林立しています。

4 寺のそばにある「産の滝」

 さて、金蔵寺を訪れたなら、地元の滝として親しまれてきた「産の滝」は見逃せません。

 お寺に至る車道の最後のヘアピンカーブから山手側に歩いていくと、岩倉川が高さ12メートルほどの切り立った岩肌を渓流のように流れ落ちています。

 この滝の上流には、さらに、一の滝、ニの滝がありますが、一番見栄えする「産の滝」とはいえ、しばらく晴天が続いていたせいか水量は少なく、やや迫力には欠けました。

 「産の滝」の名の由来は、この近くで、向日神社の祭神(向日神)が産まれたからと伝えられています。

 奥さんからは、かつては、温泉が沸いていたとお聞きしましたが、産湯などにも使われていたのかもしれませんね。

水量の多い時の見栄えする滝の様子です。

 

 私が訪れた次の週から、ようやく秋らしくなり、朝晩の冷え込みを感じるようになりました。

 西山も少し色づいてきたように感じます。黄色に染まるスポットがみえたら、再訪しようかなと思っています。

 

(追記5.11.23)

 今回は、大原野神社から、東海自然歩道を歩いていくことにしました。

 西山が近づくにつれて、紅葉の衣を纏うように見えてきます。

 坂本の集落を過ぎると、小塩山に入っていきます。標識の向こうには、椿・大神楽が早くも咲いています。

 速足で約30分あまりで金蔵寺到着。

 前回から3週間足らずですが、すっかり紅葉が進んでいます。

 石段を上っていくと、紅葉の波が押し寄せてくるようです。

 思わず見とれてしまう光景です。

 見晴らし台にも行ってみました。

 洛西ニュータウン桂川、東山連峰・・・。市内が一望できます。

 大銀杏もすっかり色づいていました。

 あの五色椿が紅葉に囲まれています。

 背景の紅葉もより鮮やかとなっていました。