鷹峯・光悦寺の紅葉と源光庵の山茶花

 11月も下旬となると、朝夕の冷え込みが感じられるようになりました。紅葉も一気に進み、京都の各地で見頃を迎えました。

 京都の西北にある鷹峯は、紙屋川の谷口に広がる段丘状の台地で、本阿弥光悦が一族を引き連れて移住した地として知られ、光悦ゆかりの「光悦寺」や「源光庵」など、紅葉の名所としても人気の高いスポットです。

 鮮やかで艶やかな紅葉と、対照的に、つつましげに白い花を咲かせていた「源光庵」のサザンカの大木をご紹介します。

1 紅葉の光悦寺へ

 

 千本通を北上し、今宮通との交差で北山通と岐れ進んでいくと、道沿いに鷹峯の集落が連なります。

 鷹峯は、京北・周山や若狭へとつながる旧周山街道の起点にあり、京の七口の一つ「長坂口」が設けられ、木材や薪炭、若狭の鯖をはじめ、物産の集積・中継地として、重要な位置を占めました。

 平安時代の昔は、天皇の遊猟地であり、秀吉が築いた「御土居」の外にあって辻切や追剥が横行する物騒な曠野だったそうですが、光悦は、徳川家康からこの地を与えられ、一族とともに、職人やその家族らが移り住むと、鷹峯は、にわかに「芸術村」の様相を呈します。

 光悦は、寛永の「三筆」の一人とうたわれた書のみならず、画、作陶、蒔絵など万能の才を示した芸術家です。それに加えて、工芸集団をまとめ率いるプロデューサーとしての力量を大いに発揮します。このため、鷹峯は、文化芸術の一大拠点となり、俵屋宗達をはじめ多くの芸術家、文化人も訪れ、共作し、交流したとされます。

 松本清張の「小説日本芸譚」に光悦が取り上げられており、往時の自信満々で傲慢だが、気弱い面もふと見せる光悦を、一職人の目を通して描いた小品が記憶に残っています。

 本阿弥一族は、熱心な法華経信者で、光悦の死後、その屋敷跡が光悦寺として開創されました。

光悦の墓所です。

 ただ、カリスマ的指導者がいなくなった後は、求心力が弱まり、芸術村としての機能が弱体化して、1680年ころには、この地が本阿弥家から幕府に戻されることとなります。

 70年近く続いた芸術村は、夢幻のごとく消え去ったということです。

 そんな歴史をもつ光悦寺ですが、鷹峯の起伏に富む地形を借景に、7つの茶室と、それらを囲む野趣を感じさせる庭が見どころで、とりわけ、紅葉時には多くの人が訪れます。

 とりわけ、山門からの石畳の参道は、モミジ並木が美しく、京都有数の撮影スポットでもあります。

 立ち並ぶ茶室については、大正以降に建てられたもので、まだ歴史の積み重ねの重みがないこともあり、この配置は好みの分かれるところかもしれません。

 芥川龍之介は、「京都日記」で、この茶室のことをきわめて辛辣に記していますが、その遠慮のない毒舌ぶりは容赦の無いもので、それはそれで面白くもあります。

 庭には、そこかしこに椿やサザンカがありましたが、さほど目立つこともなく、風景の中に溶け込んでいるという感じでしたね。

 鐘楼そばの白いサザンカと、早咲きの小輪の白侘助が紅葉の中で、静かに咲いていました。

2 圓成寺の紅葉

 光悦寺を出て、道路の向側には、圓成寺という寺院があります。

 何気なく山門に向かうと、門の向こうには美しい紅葉が。

 光悦寺の観光客もこちらに向かう人はほとんどなく、ひっそりとした境内を、モミジが色鮮やかに彩っています。

 ボリュームに圧倒されるというのではなく、心地よい頃合いで、秋の風情に癒やされるといった感じです。

 寺務所横のモミジの樹の下に置かれた手水鉢が印象的でした。趣ある色合いとあまり手を加えていない自然なかたちの石に、渓流を思わせる凹みがあり、そこに紅葉が水面に浮かぶ様子に思わず見入ってしまいました。

 円成寺は、写真撮影をご遠慮くださいとのことですので、光悦寺を訪れた際に、静かにお参りするのがよろしいかと思います。

3 源光庵の紅葉と山茶花の古木

 最後に、源光庵を訪れました。

 円成寺を出てすぐ、鷹峯街道北側に見えてくる白壁をたどると、源光庵の山門へと出てきます。

 さすがにこの時期の源光庵、多くの観光客が紅葉を愛でに集まっていました。

 山門の左手には、真紅に染まったモミジの樹が群れて立ち、日の光に色遣いを変えながらきらめいていました。この光景は、やはりリアルで味わう価値がありましたね。

 特徴的な白い丸窓を両目のように備えた山門を入ると、正面に堂々とした本堂が横たわっていますが、前庭の東の塀沿いに、サザンカの大木がありました。

 幹回り1メートルは超えていそうな巨木で、樹齢は200年以上になるのではないでしょうか。

 自然のままに枝を伸ばすというのではなく、庭木として、円筒形の樹形に手入れされています。まだ満開にまではなっていませんでしたが、白い花を一面に咲かせていました。

 周囲の紅葉に目が引かれてしまうので、目立たないこともあってか、あまり関心を向ける人もいないようでした。

 これまで各所の椿を巡っている中で、何本か名のあるサザンカも見てきましたが、源光庵のサザンカは、これらと比べても遜色のないものだと思います。

 私だけ、このサザンカの回りを矯めつ眇めつ眺めていたら、なにやら重い羽音が耳元に・・・。

 こんな季節にオオスズメバチが花から花へと移っています。てっきり肉食だと思っていたのですが、蜜を吸うのですね。蜂には何度か大変痛い目に会っていますので、ほうほうのていで退散いたしました。

 源光庵を出て、光悦寺の駐車場へと。

 参道の燃えるようなモミジをもう一度仰ぎ見て、家路へとつきました。